建築関係事業 | 関連会社を利用した会社再生

東京近郊にある建築関係業者による再生事例について説明します。債務超過状態で相談を受けたところ、本業の分析を行い、有益な事業を別会社へ譲渡し、本体の会社は自己破産することにより再生しました。

事案の概要

会社の事業内容

関東近郊に所在する建築解体業を中心に業務を行う株式会社です。

事業内容は,建物解体工事業を中心に行ってきました。当初は,地元のハウスメーカーや建築工事会社等より個人の居住用建物などの小規模建物の解体工事を受注していました。その後,いわゆるゼネコンより大規模な建築物の解体工事を請け負うようになり,順調に売上を伸ばしました。

このような事業活動によって,当社は一時期には年間約4億8千万円の売上高を計上していました。

経営困難に陥った経緯

不採算工事の受注・実質的利益の低迷

外形的には売上高は順調に推移しましたが,途中から実質的な利益は出ていない状態が続いていました。

というのも、前記のとおりゼネコンより大規模な建物の解体工事を受注するようになり,売上金額は飛躍的に増大しました。

しかし,大規模な建物の解体工事を実施する為に,それに対応しえる什器類を調達したり,解体工事に従事する外注業者へ発注する必要が生じました。それに伴い,経費も売上の上昇率以上に増大することになりました。しかも,会社は解体工をゼネコン経由で第2次,第3次下請として受注することが多かった為,受注金額が採算割れすることもしばしばでした。さらに,解体工事条件を元請より一方的に変更され,当社の負担により変更された条件に従わなければならない状況も発生しましました。その場合,元請に請負金額の追加を求めても,それに応じてもらえないことが殆どでした。

以上の事情により,売上高が伸びていても,実際にはそれ以上に外注費や経費が増大し,実質的な利益は殆どでておらず赤字となっていました。

借入金・支払利息の増大,金融機関からの借入への依存

上記のとおり事業の拡大に伴い,大規模建物の解体工事に対応する為の設備投資費用や外注費・人件費などの資金繰りの為,金融機関からの借入額も増大の一途を辿りました。

20○○年当時は約8000万円(支払利息は年間260万円程度)であった借入が,その後の5年で倍以上の1億9000万円(支払利息は年間720万円程度)にまで及びました。同時に,当社は,その資金繰りを金融機関からの借入に依存することになり,借入金の半分以上は短期の借入の繰り返しとなりました。すなわち,短期借入金の更新が停止された場合(いわゆる貸し剥がしにあった場合),資金繰りがショートするような状態にまで陥りました。

その為,短期借入の継続を得る為に,帳簿上の売上高をとにかく増大させる必要にも迫られ,前記のとおり実質的には不採算となるにもかかわらず,ゼネコンの大規模な解体工事の受注を続けなければならないこととなりました。その結果,不採算なゼネコンの工事の受注→同工事を遂行するために高額の経費の負担→高額な経費の負担をするための短期借入金の増大・継続→融資継続の為に,売上高の高い不採算なゼネコンの工事の受注(以下略)という悪循環に陥り,負債総額は雪だるま式に増大し,資金繰りも一層逼迫することになりました。

20○○年2月以降の資金繰り

このように短期借入(折り返し融資)を繰り返して資金を回していましたが,20○○年2月頃,あてにしていたメインバンクの短期借入の折り返し融資を突然断られるという事態となりました。同金員がなければ,金融機関への元利金の約定返済はもちろん,外注業者への支払い,廃棄物処理場への支払い,燃料費の支払い,資材置き場・事務所の賃料の支払い,従業員への給与の支払いが出来ない状態となります。

これら取引債権や賃金の不履行が生ずれば,事業継続の前提となる継続的な取引が出来なくなり,会社の事業の継続は不可能となる状況となりました。

当事務所への相談・依頼

上記経緯から経営者は当事務所へ相談の上、ご依頼されました。

解決に向けたプロセス

状況分析

財務・資金繰り分析

資金繰り表により分析した結果、前記のとおり短期借入の折り返し融資を断られたことにより2~3ヶ月後には確実に資金ショートする状況であることが判明しました。残された時間はわずかで、短期間で方針を決定し実行する必要がありました。

また、債務は約2億円となっていました。当時の事業形態をそのまま継続したことを前提に推計すると返済までに50年以上はかかることが見込まれ、返済を前提とした自主再建の選択肢は事実上とることは不可能でした。それゆえ、第二会社方式等の私的整理か、法的整理を選択せざるを得ませんでした。

事業・ビジネス分析

建築解体業は、建築業の表裏一体のビジネスであるところ、当時は建築業自体は首都圏を中心に拡大成長している状況にありビジネスとしてのニーズは堅調に存在しました。

もっとも、前記のとおり会社の事業の大部分を占めていたゼネコン経由の受注業務は、実質的に利益は乏しく不採算の事情であることが判明しました。経営者は目先の資金繰りに必死で、メインバンクの短期融資をつなぎとめるために利益の少ないが売上高は高いゼネコン経由の受注をしていましたが。当事務所にて分析した結果、大手ゼネコンの仕事こそが業績悪化のガンであったことが判明しました。

大手ゼネコンというと聞こえはいいですが、多重下請で利益は吸い上げられ、対象会社のように二次・三次下請の企業の利益は殆どないこともよくあります。大手ゼネコン担当者からは「今は大変だけど、これからだから今は我慢して」などとなだめすかされていましたが、請負代金の値上げ等の条件の改善には全く応じていませんでした。対象会社の社長も目先の資金繰りに負われていた弱みもあり、ゼネコンのいいなりでした。

そこで、会社を再生するとしても、ゼネコン経由の仕事はやめて別の取引先に切り換える必要がありました。対象会社では、ゼネコン経由の仕事の以外にも地元の住宅メーカーの仕事も僅かですが受注していました。そちらの仕事は仕事は大きくはないものの、利益率はゼネコン経由の仕事より遙かに良いことがわかりました。そこで、再生する場合は、地元の住宅メーカー経由の仕事を中心に行う方針としました。

経営者・従業員のやる気

経営者は40代とまだ若く、この先も建築解体業を続けたいという強い気持ちがありました。また、経営者の補佐するベテラン社員や経理社員も社長を支えて協力する強い気持ちが見受けられました。また、経営者の兄弟は同業の建築解体業を別会社で行っており、兄弟も協力することを申し出ていました。この兄弟の別会社が今回の再生スキームのキーポイントなりました。

再生スキーム決定

まず、前記の財務・資金繰り分析からは、返済までに50年以上はかかることが見込まれ、返済を前提とした自主再建の選択肢は事実上とることは不可能でした。

それゆえ、私的整理か法的整理(民事再生・破産)を選択する必要がありました。

今回は、兄弟の別会社に対象会社の従業員の一部と什器備品類の一部を承継し、対象会社と代表者は破産手続を取ることとしました。

対象会社の事業を譲渡したり会社分割を利用する私的整理を行う場合は、事前に債権者に説明を行い了承を得た上で進める必要があります。しかし、今回はもともと兄弟が別会社で建築解体業を行っていたことから、同会社へ対象会社の什器備品類と従業員を承継することとしました。ただし、対象会社が行っていたゼネコン経由の仕事は引き継ぎませんでした。また、対象会社の事務所・倉庫も承継しませんでした。それゆえ、事業譲渡等ではなく、単なる什器備品類の売却、対象会社からリストラされる社員の一部の再雇用という形を取ることとしました。なお、このあたりは後々破産手続をとった際に管財人より詳細に確認されることが予想されるので、問題にならないように弁護士の指導の下にしっかりと対策をとって適性に行いました(後の破産手続で管財人から問題点は指摘されませんでした。)。

また、兄弟の別会社ではもともと行っていた地元ハウスメーカーの仕事を早々に拡充するべく営業を行いました。

取引先対応

対象会社の主な取引先としては、①多くの仕事を受注していたゼネコン、②解体工事に伴い発生する廃棄物を引き受けてもらう廃棄物処理場、③下請の解体業者、④事務所・倉庫の賃貸人などでした。

①ゼネコンについては、今後、別会社にて取り引きを続けるつもりはありませんでしたが、対象会社の資金繰りが苦しかったため、状況を説明して一部支払いを早めてもらいました。それを破産手続費用の一部に充当しました。破産手続をとった際に売掛金が一部残っていましたが、回収は破産管財人に委ねました。

②については、建築解体業を行う上では重要な取引先ではありますが、支払いが一部できない可能性がありました(破産手続の偏頗弁済になるため)。その場合は別会社での取引ができなくなる可能性があるため、その場合に備えて別の廃棄物処理場を探し、別会社にて取引を開始しました。

③下請の解体業者はゼネコンの仕事をする場合に取り引きしていましたが、今後ゼネコンの仕事は行わないので、別会社とは取引はしませんでした。また、支払いについては未払がありませんでしたので、破産手続をしてもトラブルにはなりませんでした。

④事務所・倉庫は、建築解体業を行う上で必要な施設ですが、賃料等が若干割高でしたので別会社では引き継ぎませんでした。賃料・減容回復債務が残りましたが、保証金償却の範囲で対応してもらい、残りの債務は破産手続で処理してもらうことにしました。

従業員対応

従業員の全員について、破産手続前に会社都合で退職してもらいました。もっとも、従業員の90%以上は兄弟の別会社で再雇用をしました。

会社は債務超過・資金繰り難になっていましたが、社長の人望が厚く、主要な従業員は別会社についてきてくれました。

破産手続

自己破産申立

上記のとおり対象会社については、従業員は全員退職、事務所・倉庫は明け渡し、什器備品類は兄弟の会社へ売却し、会社の本店も移転しました。

その上で、会社と代表者について破産の申立を行いました。申立は東京地方裁判所において行いました。地元の裁判所でも申立は可能でしたが、東京近郊の地方裁判所での手続は、傾向としてスピード感がなく、東京地方裁判所で行うのと比べると1.5倍から2倍近くの時間を要することが多いというのが筆者の実感です。また、東京近郊の裁判所も破産管財人も無駄に細かな点を指摘する傾向があるので時間が余計にかかるという感想を持っています。それゆえ、スピード感を重視して東京地方裁判所にて申立を行いました。

破産管財人対応

すぐに破産管財人が決まり、都内の管財人事務所にて弁護士吉村と代表者にて面接を行いました。必要な資料一式を引き継ぐとともに、質疑応答がなされました。事前に吉村にて質疑内容は想定していましたので、特に問題はありませんでした。

その後、破産管財人にて帳簿類の調査、現地を訪問しての調査などが行われましたが、吉村の指示で事前に慎重に証拠書類等を揃えておきましたので、全て明確に説明を行い、破産管財人の了承を得ました。

破産手続終結

破産申立後から数ヶ月後に破産手続は終結しました。

社長の生活について

社長は、対象者会社の自己破産申立後、兄弟の会社で一作業員として雇用されました。そのため、自己破産申立後も定期的な収入をえることができました。

また、社長は当初家族と同居していたマイホームの維持を希望していましたので、当初より検討を進めました。

まずは、会社は自己破産・代表者個人は個人再生を取ることを検討しました。しかし、社長は会社の借金の連帯保証人となっていましたところ、会社の債務は2億近くありました。住宅ローンは維持しながら再生する住宅資金特別条項の5000万円要件をクリアできず、この方法は断念しました。そのほか、近親者に社長のマイホームを買い取ってもらいリースバックする方法も検討しましたが、そのような資金を用意できる近親者がいなかったため、こちらも断念しました。

結局、社長はマイホームを維持することは諦めました。もっとも、自己破産申立後も確実な収入があったため、最寄りの賃貸住宅へ転居しました。転居後の社長のコメントとしては「マイホームは出来れば残したいと強く思っていました。しかし、転居先の駅近のマンションが思いのほか便利で家族も喜んでくれています。マイホームにそこまでこだわる必要はなかったのだと思います。」とのことでした。

再生のその後

会社再生後の会社は、現在も健在です。前回の失敗に学び健全な経営を続けています。

「何度も会社に足を運んでくれて、遅い時間まで真剣に相談に乗ってくれたこと、今でも思い出します。あのとき先生に相談して本当によかった。その当時いた社員も時々先生と会いたいと言っていますよ。戦友といっては変ですが、そういう風に皆思っています。」と言って頂きました。

確かに、都内から車を走らせて関東近郊の都市にある倉庫内の事務所で遅い時間まであーでもないこーでもないと話し合いをしていたときのこともを私も鮮明に覚えています。

今も経営者及び社員達が事業を継続し生活を送っていることには本当に素晴らしいことだと思います。このような機会に接することができ、弁護士をやっていて良かったと心から思いました。

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